発達障害とマインドフルネス心理療法
2025年4月18日

発達障害とマインドフルネス心理療法
~「今ここ」に立ち返ることで見えてくる、新たな可能性~
はじめに
発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害など)は、生まれつきの脳の働きの特性によって、対人関係や日常生活、学業・就労の場面で困難を感じやすい状態です。近年、こうした発達障害に対する理解が進む一方で、当事者が直面する「生きづらさ」や二次的な問題(不安、抑うつ、自己否定感など)は依然として大きな課題として残っています。
そのような中で注目されているのが、「マインドフルネス心理療法」です。これは、仏教瞑想をルーツとしながらも、現代の心理療法として体系化されたもので、近年ではうつ病や不安症に限らず、発達障害の支援にも応用され始めています。
本稿では、発達障害におけるマインドフルネスの活用可能性と、その効果的な実践のヒントについてご紹介します。

発達障害の「二次障害」とその背景
発達障害の特性そのもの(例:こだわりの強さ、注意の偏り、感覚過敏など)は、多様な個性の一部でもありますが、社会の中で「普通」とされる在り方から外れると、批判や誤解、孤立の原因にもなりやすくなります。
その結果、多くの発達障害の当事者が経験するのが、「二次障害」です。
例えば――
- 周囲に合わせられず「自分はダメだ」と思い込む自己否定感
- 同じ失敗の繰り返しによる抑うつや無気力
- 感情をうまくコントロールできないことで生じる不安やパニック
こうした心理的な苦しみは、特性の直接的な影響というよりも、「社会的なズレの中で蓄積されたストレス」によって引き起こされます。

マインドフルネスとは何か?
マインドフルネスとは、「今この瞬間」に注意を向け、評価や判断をせずに、自分の体験をあるがままに受け止める心の状態を指します。
具体的には、呼吸や身体感覚、思考、感情などの「今起きていること」に意識を向けながらも、それを良い悪いと評価せず、ただ観察する姿勢です。
マインドフルネスは、以下のような心の変化を促します:
- 刺激に対する反応を一時停止し、自分で選択できるスペースを持てる
- 思考や感情に巻き込まれず、距離をとる力(メタ認知)が高まる
- 自己批判を和らげ、自己受容が育まれる
- 衝動性や過敏さに対する気づきが深まり、感情の安定を助ける
発達障害のある方にとってのマインドフルネスの効果
マインドフルネス心理療法は、発達障害の方が抱える「内的な混乱」や「不安定な感情」「否定的な思考のループ」にアプローチする有効な手段となり得ます。
1. 感情のコントロール力を高める
発達障害の特性として、感情の起伏が激しい・衝動的になりやすいなどの傾向が見られます。マインドフルネスを通じて、「イラッとした瞬間」や「不安が高まる瞬間」に気づけるようになることで、反射的に行動するのではなく、落ち着いて選択肢を考える余地が生まれます。
2. 過剰な自己否定からの解放
「なんでこんなこともできないんだろう」と自分を責めることが習慣化している方も少なくありません。マインドフルネスでは、自分の思考や感情を評価せずに観察することを重視するため、自己否定のループから少しずつ距離をとれるようになります。
3. 社会とのズレに対する「気づき」が深まる
発達障害の方の多くは、「なぜ自分だけうまくいかないのか」と戸惑いながらも、その理由に明確な答えが持てず苦しむことがあります。マインドフルネスの実践を通じて、「自分がどのような時に混乱しやすいのか」「どんな状況が苦手か」といったパターンに気づけるようになり、それに対処する力が育ちます。

発達障害の方と接する際に気をつけること
1. 相手の特性を理解する
- 発達障害は一人ひとり異なります(自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害など)。
- 「できない」のではなく「苦手」なことがある、という認識が大切です。
- 音や光、においなどに敏感な方もいるため、環境面にも配慮を。
2. わかりやすく、具体的に伝える
- 抽象的な表現や比喩は避け、明確で簡潔な言葉で伝えましょう。
- たとえば「ちゃんとして」よりも、「椅子にまっすぐ座ってね」の方がわかりやすいです。
3. 急な変化は避け、予告をする
- 突然の予定変更や刺激に弱い方もいます。
- スケジュールの変更があるときは、できるだけ早めに、具体的に伝えましょう。
4. 相手のペースを尊重する
- 処理速度や反応のスピードには個人差があります。
- 急かさず、待つことも大切な配慮です。
5. 否定や命令ではなく、肯定的な言葉を使う
- 「やめなさい」よりも「こうするといいよ」といった言い換えが有効です。
- 自尊心を傷つけないよう心がけましょう。
6. 安心できる関係を築く
- 「失敗しても大丈夫」「そのままでいいよ」と伝えることが、安心感につながります。
- 否定され続けてきた経験を持つ方も多いため、肯定的な関わりが何より重要です。
7. 感情のコントロールが難しいときの対応
- パニックや過敏反応が起きたときは、まず落ち着ける場所を提供しましょう。
- 叱るよりも「今はつらいね」「一緒に休もう」と寄り添う声かけを。
8. 本人の「得意」を見つける
- 苦手な部分に注目しがちですが、得意なことや興味のあることを見つけることで、自己肯定感の向上につながります。
9. 専門家と連携する
- 支援が必要な場合は、福祉サービスや心理の専門家と連携することも大切です。

発達障害には丁寧な個別対応が不可欠
なぜ発達障害には丁寧な個別対応が必要なのか?
発達障害の特性は、一人ひとり異なります。同じ診断名であっても、注意の偏りが強い人もいれば、感覚の過敏さが際立つ人、こだわりが強く行動の切り替えが難しい人もいます。つまり、「発達障害」という言葉は共通の枠組みではあるものの、実際の困りごとや得意なことは多様です。
丁寧な個別対応が必要な主な理由:
理由 | 説明 |
---|---|
特性の現れ方が人によって異なる | 画一的な支援では合わないことが多く、逆にストレスや混乱を招くこともある |
小さな違和感が大きなストレスになることがある | 感覚の過敏さや、予定変更への不安など、周囲が気づきにくい困難を抱えている |
自己理解と安心感が土台になる | 「わかってもらえた」という実感が信頼を生み、支援への意欲や効果に直結する |
一般的な方法が逆効果になる場合もある | 例えば、「じっと座って話を聞く」支援が、ADHD傾向の方には負担になることも |
そのため、支援者には「相手を観察し、仮説を持ち、試行錯誤しながら関わる」という柔軟さと、本人の言葉に丁寧に耳を傾ける姿勢が求められます。
実際の支援での活用事例
当法人では、マインドフルネス心理療法を基礎とした個別支援やグループサポートを行っており、発達障害の傾向を持つ方々にも取り入れてきました。
30代男性(ADHD傾向)の例では、日々の感情の波に翻弄されていた中、マインドフルネスの実践を通じて、「今起きていることに気づき、少し待ってから行動する」習慣が身につき、家庭や職場での衝突が大きく減ったという声が寄せられました。
また、20代女性(自閉スペクトラム症傾向)では、自分の中にある「人に嫌われたくない」という強い不安に気づき、その感情を「ある」と認めることで、自分を労わる視点が持てるようになり、人間関係のストレスが軽減されました。
専門家の伴走と継続がカギ
マインドフルネスは、たしかにシンプルな実践ですが、効果を実感するまでにはある程度の継続と、的確な指導が必要です。特に発達障害の方にとっては、「感覚過敏」や「集中のしにくさ」などの特性を踏まえた工夫が重要になります。
そのため、独学での実践ではなく、発達特性に理解のある専門家のもとで、安全かつ丁寧に進めていくことが勧められます。

おわりに
発達障害という特性は、確かに社会生活において困難をもたらすことがあります。しかし、それは「欠陥」ではなく、「異なる認知のスタイル」でもあります。その人なりの強みを活かし、弱みを補う支援の一つとして、マインドフルネス心理療法は、静かに、しかし確実にその力を発揮しています。
「今、ここにいる自分を、否定せず受け入れること」
――そこから、新たな一歩が始まります。
マインドフルメイトの相談会
マインドフルメイトでは、マインドフルネス心理療法を用いて、精神疾患の治療及び予防を行っています。その対策や予防が出来ずに過ごしてしまうと症状が長引くと仕事ができない、思うことができないと苦悩したり、悪化すると自殺したい、消えたいなどの気持ちが出てくる人がいます。マインドフルネス心理療法は、アメリカの臨床実験により、うつ病や不安障害やパニック障害やPTSD、摂食障害(拒食・過食)、依存症、家族の不和などに効果があることが確認されています。
以下をご覧ください。(クリック)↓ https://mindfulmate.jp/conference/
マインドフルネスのエビデンス(効果の検証)
マインドフルメイトでは、過去10年以上の活動データを基にエビデンスを制作しています。その方たちは、うつ病や不安障害・パニック障害等の症状で悩む方々になります。私たちは、それらの方々の苦しみの声に真摯に耳を傾け、その人・その人に相応しいマインドフルネスを提供してきました。
その結果が、10年間で600名以上になっていますのでその集約をマインドフルネスのエビデンスとしています。
以下をご覧ください。(クリック)↓ https://mindfulmate.jp/evidence/
この記事は以下の方が執筆しています。
佐藤福男
〇資 格 : マインドフルネス瞑想療法士(マインドフルネス総合研究所) マタニティー / 0才児 指導者資格(幼児開発協会) 一般旅行業取扱主任者(国家資格) 〇役 職: 非営利型一般社団法人マインドフルメイト代表理事・ マインドフルネス学校 学校長
【リンクのご案内】
〇カウンセラー・佐藤さんに聞く「マインドフルネス」実践と“想い”
https://mindfulmate.jp/practice-of-mindfulness-and-feelings/
〇うつ病や不安障害を乗り越えた体験談
https://mindfulmate.jp/impressions-after-the-mindfulness-session/
〇マインドフルネス相談会のご案内 IN東京都・愛知県・山梨県
https://mindfulmate.jp/conference/
〇マインドフルネスのエビデンス / 調査・研究・活動の報告
https://mindfulmate.jp/evidence/
〇マインドフルメイトのサイトマップ