脳トレとうつ病について
2025年5月18日

脳トレとうつ病について
うつ病は、単に気分が落ち込んだり疲れやすくなる病気ではなく、実は脳の働きにも大きな影響を与えていることがわかってきています。特に、考える力や意欲に関わる「前頭前野」、記憶や感情を調整する「海馬」、そして不安や恐怖に反応する「扁桃体」といった脳の部分が、うつ状態のときには本来の働きを十分に果たせなくなっていることが多いのです。
このような脳の働きの低下は、何もする気が起きなかったり、物事に集中できなかったり、自分を責めるような考えばかりが頭に浮かぶ、といったうつ病特有の症状と深く関係しています。そこで役立つのが「脳トレ(脳のトレーニング)」です。
脳トレとは?
脳は年齢に関係なく、刺激を与えれば新しいつながりを作ったり、弱った部分を補おうとする力を持っています。これを「神経可塑性(しんけいかそせい)」と呼びます。つまり、脳トレによって、傷つきやすくなっている脳の回路を少しずつ回復・強化していくことができるのです。
たとえば、簡単なパズルや記憶ゲーム、計算問題、言葉遊びなどに取り組むことで、前頭前野や海馬が刺激され、思考や記憶の力が少しずつ戻ってきます。しかも、こうした課題を通じて「できた!」「ちょっと覚えられたかも」という小さな達成感が得られると、脳の中の報酬系(ドーパミン系)が活性化し、うつ状態によくある「無感動」や「楽しめない」といった感覚もやわらいでいくことがあります。
「脳トレ」は、脳の働きを活性化させるトレーニング全般を指します。
例:
- 計算問題や記憶ゲーム
- パズルやクロスワード
- 語彙力や論理的思考を使う課題
- 音楽・アートなどの創造的活動

うつ病と脳の関係
うつ病は「脳の機能の変化」によって起きる心の病
うつ病というと、「心が弱っている」「気分の問題」と思われがちですが、実際には脳の働きそのものに変化が起きている状態です。
特に重要なのは、感情・思考・意欲・記憶などをつかさどる脳の部位が、バランスを崩してしまうことです。
うつ病に関係する主な脳の部位
1. 前頭前野(ぜんとうぜんや)
脳の前の部分にあり、「考える」「判断する」「意欲を出す」などに関わります。
うつ病の人では、この部分の活動が低下していることがよく確認されています。
そのため、「何もしたくない」「集中できない」「決断できない」といった症状が出やすくなります。
2. 海馬(かいば)
記憶や感情の調整を行う大切な場所です。ストレスにとても弱く、長期間のストレスやうつ状態で縮小してしまうことが研究でわかっています。
これによって、「記憶力の低下」や「感情の不安定さ」が起こりやすくなります。
3. 扁桃体(へんとうたい)
不安や恐怖など、強い感情に反応する部分です。うつ病の人では、この部分が過剰に反応しやすくなっていることがあります。
そのため、必要以上に不安を感じたり、物事を悪い方向に考えやすくなることがあります。

神経伝達物質のバランスの崩れ
脳内には「神経伝達物質」と呼ばれる、脳細胞同士のやり取りを助ける物質があります。
特にうつ病に関係するのは次の3つです:
- セロトニン:感情の安定に関わる
- ノルアドレナリン:意欲や集中力に関わる
- ドーパミン:喜びや快楽を感じる力に関わる
うつ病では、これらの物質の分泌や働きにアンバランスが生じ、気分ややる気が大きく落ち込んでしまいます。
ストレスと脳の関係
慢性的なストレスは、脳にとって大きな負担です。
ストレスホルモンである「コルチゾール」が長く出続けると、海馬が萎縮し、前頭前野の働きも鈍ってしまいます。
つまり、強いストレスは、脳の構造や働きに実際のダメージを与えるということです。
脳の回復力と希望
うれしいことに、脳は「可塑性(かそせい)」といって、新しくつながりを作り直したり、働きを回復させる力を持っています。
薬物療法、心理療法、マインドフルネス、生活習慣の改善などにより、
この回復力をうまく活かすことで、脳の働きも少しずつ改善していきます。

脳トレがうつ病に与える影響
脳トレは「弱った脳の機能」をやさしく刺激する
うつ病のとき、私たちの脳はまるで“疲れてしまった状態”にあります。
特に、意欲や判断、集中に関わる「前頭前野」や、記憶や感情の調整を担う「海馬」の働きが低下してしまうことが多いのです。
脳トレは、こうしたうつによって弱まってしまった脳の働きをやさしく刺激することで、機能の回復を促します。
簡単なパズル、記憶ゲーム、言葉探し、間違い探しなど、無理なく取り組める課題が中心です。
「神経可塑性(しんけいかそせい)」を活かす
人の脳には、損なわれた機能を補うように**新しいつながりを作り直す力(神経可塑性)**があります。
脳トレはこの力を引き出し、うつで低下した前頭前野や海馬の働きをサポートします。
定期的な刺激によって、神経細胞のネットワークが強化されると、次第に以下のような変化が現れてきます。
- 注意力が少しずつ戻ってくる
- ものごとを前向きに捉えやすくなる
- 「やってみようかな」という意欲がわいてくる
成功体験が「報酬系」を刺激し、気持ちに変化をもたらす
脳トレでは、小さな「できた!」という体験が得られやすいのも大きなポイントです。
たとえば、「昨日は3問しかできなかったけど、今日は5問解けた」などの変化は、ドーパミンという快感ホルモンを分泌させるきっかけになります。
このような「報酬系」の刺激は、うつ病に特徴的な「楽しさが感じられない」「無感動」といった症状をやわらげる手助けとなります。
認知のゆがみの修正を助ける
うつ病のときは、「どうせうまくいかない」「自分なんてダメだ」といった**ネガティブな思考のクセ(自動思考)が強く出てきます。
脳トレを続けると、集中力や注意力が高まり、
こうした思考のクセに気づきやすくなったり、それに対して客観的に考え直す「心の余裕」**が少しずつ生まれてきます。
脳トレの良い影響
- 認知機能の改善
→ 記憶力・集中力・判断力の向上が期待される。
→ 「考えがまとまらない」などの改善に役立つ可能性。 - 前頭前野の活性化
→ 気分や感情のコントロールに関与しているため、軽いうつ状態の改善が期待される。 - 達成感と自己効力感の回復
→ 問題を解けた達成感が「自分でもできる」という感覚を育て、気分の回復に寄与。 - 習慣化することで生活リズムが整う
→ 日常に少しずつ「やること」があると、うつによる無気力状態の打破に効果があることも。

うつ病にやさしい脳トレの選び方
うつ病の方にとっての「やさしい脳トレの選び方」は、脳への刺激を“やわらかく、心地よく”届けることを大切にするのがポイントです。無理にがんばる必要はまったくありません。むしろ「できた」「ちょっと楽しかった」という感覚を味わえることが、脳にも心にも大きなプラスになります。
1.「簡単なもの」から始める
最初は簡単すぎるくらいでちょうどいいです。
難しい問題に挑戦するよりも、「解けた」「覚えられた」という小さな成功体験が大事です。
例:
- ことば探し(しりとりやクロスワードなど)
- 簡単な数字パズル(1ケタの足し算・引き算)
- 3つの単語を覚えて、1分後に思い出す記憶ゲーム
2.時間は「短くてOK」
集中力が落ちているときに長時間のトレーニングは逆効果になることがあります。
5分だけでも十分効果があるので、「短く・軽く・心地よく」が基本です。
例:
- 朝食後に3分間、脳トレアプリを使う
- 昼休みに雑誌のクロスワードを1問だけ解く
3.「好き」「ちょっと楽しい」と感じられるものを選ぶ
脳は、好きなこと・楽しいことに自然と活性化します。
「自分にとって気が重くない」「やってみてもいいかも」と思えるものを選びましょう。
例:
- 植物や動物の名前を五十音順に書き出す
- 懐かしい曲の歌詞を思い出す
- 昔好きだったマンガのキャラを思い出す
4.「間違えてもいい」「できなくてもOK」と思えるもの
うつのときは、失敗に対して敏感になりがちです。
間違えても誰にも責められないもの、自分のペースでできるものを選びましょう。
おすすめ:
- 一人用のパズル(数独、ナンプレ、ジグソーパズル)
- 自分だけの記録ノート(点数をつけなくてもOK)
5.「五感を使う脳トレ」も効果的
脳は「感覚」と深くつながっています。見る・聞く・触るなど、五感を使う活動も立派な脳トレです。
例:
- 好きな香りを嗅いで「この香りは何を思い出す?」と考える
- 野菜や果物を目を閉じて触って、名前を当てる
- ゆっくり音楽を聴いて、楽器の音を聞き分けてみる
脳トレの選び方のポイント
脳トレは“脳の筋トレ”のようなものですが、うつのときは「トレーニング」よりも「やさしいストレッチ」と思ってくださいね。
「少し元気なときだけ」「今日はこの1問だけ」…そんなふうに、自分のリズムを大事にしながら取り入れてみてください。
① 心地よく続けられること
無理に頭を使おうとせず、「やってみたい」「なんとなく面白い」くらいの軽い気持ちでできるものが理想です。
② 成功体験が得られること
「できた」「ちょっと覚えられた」「今日はここまでやった」と感じられる工夫が大切です。
③ 感情や記憶をゆっくり動かすこと
感情や記憶にやさしく触れる脳トレは、回復に向かう力を引き出す助けになります。

具体的なおすすめ脳トレ 6選
簡単な計算(1日5分)
- 例:100から7ずつ引いていく、九九の読み上げ、3桁の足し算・引き算
- ポイント:前頭前野を優しく刺激。テンポよくできると気持ちも整う。
- アプリや市販のドリルも〇(ただしタイマー付きで焦らせるものは×)
しりとりや言葉遊び
- 一人でも、紙に書いてもOK
- 例:好きな食べ物のしりとり、ひらがなから始まる単語探し
- ポイント:脳の言語中枢+記憶をやわらかく刺激
なつかしさを思い出す脳トレ(回想法的アプローチ)
- 例:「小学生の頃好きだった遊びを3つ書く」「昔住んでた場所の思い出」など
- ノートに書く、話すだけでもOK
- ポイント:海馬(記憶)をやさしく動かし、感情をゆるめる作用があるとされます
ぬり絵・折り紙・簡単な手作業
- 手を動かす作業は脳全体の活性化につながる
- 色選びや形づくりは創造性や気分の調整にも◎
音読(詩や短文がおすすめ)
- 誰かに聞かせなくても、自分で声に出すだけで効果あり
- 好きな俳句や、絵本、短いエッセイなど
- ポイント:発語+視覚+聴覚=脳の複数領域を同時に使う刺激
マインドフルネスと組み合わせた脳トレ
- 呼吸を意識しながら行う「集中脳トレ」(例:呼吸しながら数字を1〜10まで数える)
- 注意を「今ここ」に戻しながら軽い脳トレをすることで、リラックス+集中を両立
脳トレは「無理なく、ゆるやかに」
脳トレは**「心のウォーミングアップ」**のようなもの。
調子が良くない日はお休みしても大丈夫ですし、ほんの数分でも「少しできた」だけで十分効果があります。
マインドフルネス脳トレとは?
「マインドフルネス脳トレ」とは、**脳の認知機能をやさしく刺激しながら、今この瞬間に注意を向ける練習(=マインドフルネス)**を組み合わせたものです。
うつ状態では、「過去の後悔」や「未来の不安」にとらわれやすくなりますが、マインドフルネス脳トレでは、注意の焦点を“今ここ”に戻す力を育てつつ、脳を活性化させる効果が期待されます。

マインドフルメイトの相談会
マインドフルメイトでは、マインドフルネス心理療法を用いて、精神疾患の治療及び予防を行っています。その対策や予防が出来ずに過ごしてしまうと症状が長引くと仕事ができない、思うことができないと苦悩したり、悪化すると自殺したい、消えたいなどの気持ちが出てくる人がいます。マインドフルネス心理療法は、アメリカの臨床実験により、うつ病や不安障害やパニック障害やPTSD、摂食障害(拒食・過食)、依存症、家族の不和などに効果があることが確認されています。
以下をご覧ください。(クリック)↓ https://mindfulmate.jp/conference/
マインドフルネスのエビデンス(効果の検証)
マインドフルメイトでは、過去10年以上の活動データを基にエビデンスを制作しています。その方たちは、うつ病や不安障害・パニック障害等の症状で悩む方々になります。私たちは、それらの方々の苦しみの声に真摯に耳を傾け、その人・その人に相応しいマインドフルネスを提供してきました。
その結果が、10年間で600名以上になっていますのでその集約をマインドフルネスのエビデンスとしています。
以下をご覧ください。(クリック)↓ https://mindfulmate.jp/evidence/
この記事は以下の方が執筆しています。
佐藤福男
〇資 格 : マインドフルネス瞑想療法士(マインドフルネス総合研究所) マタニティー / 0才児 指導者資格(幼児開発協会) 一般旅行業取扱主任者(国家資格) 〇役 職: 非営利型一般社団法人マインドフルメイト代表理事・ マインドフルネス学校 学校長
【リンクのご案内】
〇カウンセラー・佐藤さんに聞く「マインドフルネス」実践と“想い”
https://mindfulmate.jp/practice-of-mindfulness-and-feelings/
〇うつ病や不安障害を乗り越えた体験談
https://mindfulmate.jp/impressions-after-the-mindfulness-session/
〇マインドフルネス相談会のご案内 IN東京都・愛知県・山梨県
https://mindfulmate.jp/conference/
〇マインドフルネスのエビデンス / 調査・研究・活動の報告
https://mindfulmate.jp/evidence/
〇マインドフルメイトのサイトマップ